私と彼男は高校で知り合い、大学は別々になったけど付き合い続けて
就職難の時代ながらもなんとかお互い就職先を見つけ、数年。
環境も落ち着いてきたし、そろそろ、ということで
結婚話が出はじめた。

わが県は田舎ですが、彼男の家はその中でも立派な農村地帯でした。
なにしろその住所に、住宅はたった8件。あと全部たんぼ。
でも彼男両親はいい人で、こころよく歓待してくれ、
これならうまくやっていけそう…と思った。

ちなみに彼男の家族構成は
彼男両親、祖父母、彼男(長男)、次男、三男、長女でした。

彼男両親は
「うちの代でもう廃農するし、同居もする気ないから」と豪快に笑ってました。
トイレに立った時、彼男祖母に
「甘いこと言って、まったく」と
聞えよがしに言われて舌打ちされたけど、お年寄りってこんなもんかなと思っていた。

事態が急変したのは約半年後。
彼男が交通事故に巻き込まれ、大けがを負ってから。
確かにすごいけがで、後遺症も残ったし、障害者手帳が給付されるほど障害残ったけど
でもぜんぜん彼男は生きてるし、頭もしゃんとしてる。
なのになぜか彼男宅では
「長男なのにカ○ワでは…」
「あれでは家を継げない」
「あの子はなかったことにしよう」
となってしまったらしい。

私が彼男の病室に通いつめてる間から、やたら彼男家の次男が接触してくる。
肩とか髪とかさわってくるし、正直気持ち悪い。
「疲れてるでしょ、マッサージしようか、俺うまいんだよ」
「足を揉まないとエコノミー症候群になるよ」
などなど、やたらマッサージしてきたがる。
でも彼男の弟だし、今は非常事態だしむげにもできない…と思って
その頃はその都度やんわり断っていました。

その後また少し経って、次男があまり接触してこなくなってきたと思ってたら今度は三男が
ベタベタしてくるようになった。
それも次男より節度がなくて、いきなり手を伸ばして触ってくる。
さすがに彼男も目に余ったみたいで、声を荒げて注意した。
三男はふてくされたような顔で帰り、その後病室では会いませんでした。

それからさらにちょっと経って、彼男妹(長女)さんからメールが来た。
アドレス交換してなかったはずだけどな、と思いつつ返信すると
「弟の携帯からアドレスを入手した。話がしたい」と。
この時点で「????」な私。
私は彼男母としかアド交換してない。なんで彼弟が?そしてなぜ彼妹まで??と。

でも彼妹は数回会った限りではとてもいい子だったから、会うことにした。
場所はファミレス。
彼妹は「こんな話をするが、兄を見捨てないでほしい」と最初に言い
いろいろ教えてくれた。

もともと彼祖父母は、2chで言うところの「長男絶対宗教」の人で、
彼両親や彼男がなんと言おうと、私たちに同居をさせて後を継がせるつもりだった。
廃農する気もまったくなかった。
この家の実権はずっと彼祖父母が握ってきて、彼父はあまり逆らったことがなかった。
でも時流がもう農業じゃないし…と安易に祖父母を説得できると思っていたらしい。

それが彼男の事故で事態が変わった。
障害者になってしまった彼男を、もう祖父母は跡取りと認めていない。
でも嫁候補はいる→なら次男をあてがえばいい
次男じゃどうも嫌なようだ→なら三男でどうだ。
なんでもいいからはらませて後継ぎ作らせろ、ということになっていたそうです。


彼男両親は最初のうちこそ
「そんなの時代錯誤」
「今はそんなことが通用する世の中じゃないから」
と諫めていたようですが、もともと祖父母に逆らえない彼父、もうすっかり取り込まれてしまったとか。
そして次男三男、おまえらは女なら誰でもいいのかと…。

彼母だけが「これでいいのだろうか」と悩んでくれ、彼妹に相談。
でも彼祖父母と夫には逆らえない母のかわりに、こっそり彼妹がコンタクトをとってくれたのだという。

私は超ビックリし、そんな、彼を見捨てて弟のどっちかとなんて絶対ムリ、と言う。
妹さんも「普通そうですよね」と言い、協力してくれることになった。

その後、秘密裏に彼男と私の住民票を移したり、職場に根回しして県外への赴任を希望したりと
ちょっとずつちょっとずつ動いて、なんとか彼男は脱出成功。
彼男の仕事は上半身さえ動けばまったく問題ない職種だから、思ったほど問題なく済みました。

修羅場?と言えるのは、彼を先に逃がして一安心してる私のアパートに
次男が男友達二人を連れて突撃してきたこと。
次男がたぶん私のことを勝手にいいように言ってた(自分を振り回して捨てたとか)からだろうけど
「出てこいビッチ!」
「(次男)様に手をついて謝れー!今のうちだぞ!」
「火ーつけるぞ!」
と明らかに酔っぱらった声で2時間近く連呼された。

近所の人が通報してくれたのと、
私が妹さんにヘルプメールをしたことで
妹さん経由で次男を止めてくれる人が現われたのとで、やっと静かになりましたが
次男と次男友達はそのまま警察にお持ち帰りされました。

そしてよせばいいのに次男友が身元引受人に地元議員を指名したことで
騒ぎが知れ渡り(もちろんその議員は身元引受人にはならなかった)
彼男一家はだいぶ恥をかいたようです。

その恥でやっと彼父が目覚め、次男と三男を〆る。
彼母の涙の訴えにより、結婚生活30年近くして、やっと祖父母との別居が決まる。
祖父母がファビョりまくってるうちに私と、妹さんも脱出成功。
その後妹さんと、彼男、私が協力して、彼男両親も脱出成功。

なお三男は目覚めて彼男両親と一緒に脱出しましたが
次男はいまも祖父母とともに実家にいて、いまだ来ぬ嫁を夢みているそうです。

彼男はリハビリの甲斐あって今やほとんど障害を感じさせないくらいになりました。
疲れが溜まると補助具のお世話になることはありますが
最近は彼男に障害があることすら忘れがちです。