俺 25歳
彼女 26歳 俺の彼女。性格温厚
元カノ 27歳 俺の元カノ 気が強い
彼氏 30歳くらい? 元カノの現彼氏

今年のクリスマスは土曜日ということもあって、昼間はあちこち買い物してゲーセン行って、ちょっとお高いディナーを食べて。

予定は決めてなかったから、「少し早いけどうち来る?それともライトアップ見る?」って聞いたら「ううん。夜景見たい!」って。
じゃあ見に行こうかって、郊外の夜景スポットに車を走らせながら、
そういえば、元カノも夜景見たいとか言うから連れてったなーとか
というより元カノと行った場所に彼女と行くのは無神経かな、でも他に場所知らないしなあとかぼんやり考えてた。


元カノと付き合った事は今でも黒歴史。でも、最初は優しい人だと思ったんだ。
一人で過ごすのがそう苦にならない人間だったから、大学入ってもサークルにも入らず、友達も居なかった。
そんな俺に屈託無く話し掛けて、サークルに誘ってくれたのが元カノ。
場の中心的なタイプって言ったらいいのかな。主義主張がはっきりしてて、快活で牽引力がある、俺とは正反対のタイプ。
お陰でサークルで友達も出来て、人付き合いも、煩わしいような、楽しいようなって思い始めた頃に、元カノから告白された。
正直言って、元カノは割と目鼻立ちの整った美人だし、仲のいい男子も多かったから、「何で俺?」と思った。
でも元カノに感謝してるのは事実だし、その場でokした。
思えば、最初から草食系って見抜かれてたんだろうな…元カノが本性を表したのは、付き合い始めてすぐだった。
最初は、自販機の前に立ってて「ジュース奢ってー」だった。
それがコンビニで「小銭足りなぁーい、頂戴」とかにエスカレートして、ファミレスで食事して「じゃあ払って」になった。
さすがに金額が小さいとはいえ徐々に大きくなってるし、毎度毎度だと腹も立つ。


それで抗議したら、元カノがキレた。
「ふざけんな!誰のお陰でサークル入れたとふじこふじこ」「誰のお陰で友達が出来たと」
「お前なんてアタシが居なきゃ何にもできな(ry」「彼氏なんだから奢るのが当然」
元カノと付き合うまで彼女居ない歴=年齢だった俺は、釈然としないながらも「そういうもんなのかな」と思ってた。
何より元カノは俺が非を認めて謝るまで耳元でヒステリックに喚き続けるから、早めに折れるようになっていた。
その頃には元カノは俺の部屋に荷物を持ち込んで半同棲状態だったから、折れない限り四六時中元カノの罵声に曝されるという理由もあった。
そうして反論できないでいるうちに、元カノの要求は更にエスカレート。
化粧品、アクセサリー、服、バッグ……
「彼氏でしょ」「彼氏なんだから」「彼氏のくせに」。事あるごとにそう言われた。
その頃になるともう自分でもどうして元カノと付き合ってるのか訳わかんなくなって。
お金が無くなって、でも親からの仕送りは使いたくないからバイト始めて。
講義受けてバイトして疲れて帰っても元カノからの労いは無くて、自分と元カノのご飯作って。
段々憂鬱になることが多くなったら、また元カノに罵られて。
「なに沈んだ顔してんだよwアタシが付き合ってやってんのに嬉しくないの?」
「サークルの連中に怪しまれるから笑えよ。普通に振る舞え」「アンタの陰気な顔見てると気分悪くなる。笑え」
「仕事、接客なんでしょ?こんな店員が居る店行きたくないんですけどぉーwもっと笑えよww」
俺はずっとヘラヘラ笑いながら講義受けてバイトしてたらしい。らしいってのは、この辺記憶に無いんだけど。
気が付いたら親からの授業料も使い込んでて、クレジットカードも限度枠いっぱいになってて。
結局親にバレて、すったもんだの末、俺は大学中退+実家に強制送還。
それから三年かけて漸く社会復帰…って元カノの愚痴だけでだいぶ長くなりましたが。

話は戻って、彼女と夜景スポットに向かいながらそんな事を思い出して軽く鬱ってたら、
素早く察した彼女が「どうかしたの?」と聞いてくる。
彼女は最初からこんな風に、めちゃくちゃ気遣いが行き届いてる。
女性不信に陥ってた俺に距離を置いて接してくれて、その距離もつかず離れずって感じの適度で。
彼女から告白された時に「こういう事があって、悪いけど、女性は怖い」と正直に話すと、
「じゃあ1年間の猶予をください♪」って1年間のお試し期間を設けた上で改めて今度は俺から告白したから、彼女も元カノの事は知っている。
だから「今から行く場所に元カノと行った事があるけど、他にいい場所を知らない」と言ったら、彼女は少し悩んで、
「俺さんが嫌ならいいんですけど…でもそれって負けたみたいで悔しくないですか?」って。
「そうだ!嫌な思い出なら私との思い出で上書きしちゃいましょう♪」って。可愛くて鼻血吹くかと思った。
そんなわけで、雪の残る山道を登って展望台へ。
辺りは同じ考えのカップルが数組ひしめいているけど、皆それぞれの世界に浸ってる。
俺たちも、少し寒いけど車を降りて、夜景を見る。
昔、元カノと見た時より綺麗に見える気がするなあ、なんて感傷に浸ってたら、
「あ、俺クンじゃーん。久しぶりー」
…センチメンタルな気分なんて一瞬で吹き飛んで、冗談抜きで全身が総毛立った。
聖なる夜に神も仏もあったもんじゃないな、って思った。
どうやら元カノも彼氏と夜景を見に来ていたらしい。
何でこんなタイミングで鉢合わせるんだ、と嘆きたくなる俺に、元カノはニコニコと、
それこそ俺が未だかつて見た事が無いような笑顔を浮かべている。
「誰?知り合い?」と元カノの後ろから彼氏が問う。


彼氏さん、如何にも温厚でおっとりしてて人が良さそう。
ああ、この人がかつての俺の立場なのかな、と思ってたら、元カノは、
俺には見せたことが無い笑顔で可愛く頬に指を当てて小首を傾げる。
「大学の時の後輩ですぅー。この子アタシが居ないと何にもできなくてw」
ふと元カノの傍らをみると、プリウス。そう思えば確かに彼氏は品が良さそう。
そういうことね、と思ったら何か腹が立ってきた。
元カノと付き合った事は自業自得だし、それこそがむしゃらに反抗しようと思えばできなかったわけじゃない。
家畜に甘んじていたのは自分自身のせいだと解っていたけど、それでも許せなかった。
カッとなって殴ろうと思ったら、彼女が腕を絡めて来て俺を押し止めた。
そして素早く俺に目配せしてから、彼女はにっこりと元カノに笑顔を向ける。
「俺くんからいつも聞いてます。すごくお世話になった先輩だ、って」
「へぇー、そうなんだ」
元カノ、ニヤニヤしながら俺を見てくる。
「この子さあ、気が弱いし甲斐性ないから付き合ってると大変でしょうー?」
そしたら彼女は力いっぱい首を横に振って、
「気が弱いってのは優しいって事ですよね。俺くんは優しいですよ。誰かさんと違って他人を家畜呼ばわりしませんから!」
そこでうろたえなきゃいいのに、元カノ思いっきり狼狽。
彼女は暗に「誰かさん」とは言ったが元カノとは言ってないから堂々としてれば良かったのに。
「な、何のこと……」
そこに彼女がさらに畳み掛ける。
「それと、俺くんは絶対に他人から搾取なんてしません。搾取される痛みを知ってますから!」
言うだけ言って、彼女は元カノから身を翻し、
「帰ろ、俺くん」って。


そんな事があっても俺は相変わらずヘタレで、彼女は俺に恩を着せるでもなく普通に付き合ってくれている。
書いてるうちに日付変わったから昨日の話になるけど、
知り合いのところに元カノが振られたと愚痴を言いに来たと言う。
来年はもうちょっと、彼女に相応しい人間になれるようになりたい。