義父の話。義父は引退した手作り弦楽器職人。 
そこそこ腕は知られた人らしく、今でも指名で注文が入ったりしてる。 
引退した後は、モノづくりが好きなのと、手先の器用さを生かして、近所のよろず修理屋と化している。 

デジタルなものやメカニカルな物は無理だがそれ以外は何でもやっている感じ。 
犬小屋とか、屋根修理とか、水道管修理、冷蔵庫修理とか。 
それ以外にも、弦楽器を作って、地域の学校やら施設に寄付なんかをしていた。 

それを聞きつけた近所のママAが、娘のためにバイオリン作ってクレクレと言い出した。 
寄付しているぐらいなんだから、タダでいいよね!と。 
義父は丁寧に説明をしたうえで、お断りをしていた。 
職人として自分の専門の技術をタダで売るつもりはない。 
手作りのバイオリンが欲しいなら、売っているところを紹介するが、値段は高くつく。 
寄付に関しても、義父は技術と時間を提供しているだけで、実費は別の支援者が出している。 
等々の説明を繰り返していた。


既製品のバイオリンなんかよりも、娘子はちゃんとしたバイオリンで始めさせた方がいい、 
きっと、世界的なバイオリニストになるはず! 
そうなったら、義父さんも鼻が高いはず!とかママAが言い出した。 

義父は、「じゃあ、娘さんを家に連れてきなさい」と言う。 
義父はそれこそ世界的な演奏家を何人もあったことがあり、子供時代も見たことがあるとのこと。 
どの子供も、それこそ将来性を感じさせるオーラがあったという。 
演奏家としての才能のあるなしは私が見抜いて見せますよ。 
その上で、もし才能があるようだったら、バイオリンの事は検討しましょう、と。 

ちなみに、義父は自分の人を見る目を自分では本当に信じているようだが、私は老人のタワゴトと思って全く信じていない。 

で、娘を連れてくるママA。 
そして、義父は、少し娘さんと話をして、ママAに一言。 
「演奏家としての将来性は全く感じられませんね、間違いない。」 

分からないながらも悲しそうな顔をする娘さんと、発狂するママA。 
なによ失礼な!せっかくこっちが下手にでて頭を下げればつけ上がりやがって! 
退職して暇なんだから作れよ、このジジイが。 
この屈辱は100倍にして返す、絶対に作らせてやるからな!覚えていろ! 

と言ってママAは帰って行きました。

そして夜。ママAが旦那Aを連れて家に凸。 
うちの娘に暴言を吐きやがってと、旦那はブチギレモード。 
関わり合いにならないように、距離を置く私。 

旦那Aの言葉が終わるやいなや、なんだと、この若造が!旦那Aの首根っこをつかむ義父。 
そう、義父は酒乱でして、その日ももうすっかりと出来上がっていました。 
酒乱が原因で、義母にも愛想を付かされている人。 
しかもそれなりに背も高いし、何十年と職人だから相当筋力はあるし、でこうなると、普通の人なら手も付けられない。 

「おい、お前はタダで俺に働け、というんだな?あ゙あ゙あ゙ん?」(このあたりで腕をねじ上げていました) 
「お前の職業は不動産屋か、じゃあ、俺に家をタダで一軒よこせよ、あ゙あ゙あ゙ん?」(馬乗りになって首を押さえつけていました) 
「何できねえ?なんで自分ができない事を人に頼むんじゃぼけ!」(馬乗りで、ペチペチと軽くビンタを続けていました) 

あー大変だなーと遠くから見ていましたが、結局なんとか、A夫婦は逃げ出していきました。 


翌日、キチ夫婦の通報でお回りさんが家に話に来ましたけど、細かく説明するとむしろ注意されるのはA夫婦の方だねと特にお咎めなし。 
A夫婦は二度と家には来なくなりましたし、その後どうなったのかも知りません。 
まぁ、失礼な言い方が許されるなら「毒を持って毒を制した」ということなのでしょうか。

この「常識」というのが、人や世代、地域によって違ってくるのが難しいですね。