うちの父は私が物心ついた頃から鬱病で入退院を繰り返していました。 
当然まともな職につけるはずもなくずっと無職。 


私と兄と弟を食べさせて学校にも行かせてくれたのは母だった。 
母は美容師でしたが開業資金がなかったため(全部父の治療費と、私たちの学費で消えた) 
ずっと雇われでやっていました。 
美容師は若い子優遇で、店長でもない限り長くはやっていけない業界なのに 
母は私たちのため、同僚に笑われながらもずっと働いてくれていた。 

そんな母を尊敬していたし恥ずかしいと思うことはなかったんだけど 
兄が中学生になってからお弁当という問題に直面した。 
遠足なんかのときは母もはりきって作ってくれてたんだけどさすがに毎日は難しい。 
兄と弟と私とでなんとかがんばって、 
・米を炊く 
・たまごを焼く(スクランブルエッグ的ぐちゃぐちゃ) 
・ウインナーをチン 
・プチトマト、きゅうり 
という体裁だけでもなんとか整えられるようになりました。


でも半年くらいして、兄が「もう弁当は手伝ってくれなくていいよ」 
私に言いました。 
兄が言うには彼女ができて、その子に作ってもらえることになったからもういい、とのことでした。 
遠足や運動会など、行事のときだけは 
母がはりきってお弁当を作ってましたが、平日は彼女の手造りを食べるから、と言われてました。 

もうお察しのこととは思いますが、彼女どうこうは兄のウソでした。 
彼女なんていなくて、兄はいじめられてました。 
兄と私で作ったお弁当は毎日トイレに捨てられてたんだそうで 
毎日早起きしてキャッキャとお弁当を作ってる私と弟を見たら 
やりきれなかったらしい。 

そして兄の卒業後、当時まだなにも知らない私は中学生になりました。 
バレー部のマネージャーをしてた友人を仲介に 
3年のA先輩と知り合い、初恋に落ちました。 

A先輩が「料理のうまい子が好きだ」って言うから 
生まれてはじめてクッキーやパウンドケーキ焼いたりして、 
自分のぶんだけじゃなく先輩のぶんもお弁当作っていったりした。

そこでA先輩の口からぽろっと聞いたのが兄のいじめの件。 
「俺の二学年上の人だったけどー 
父親がキチガイで、弁当もきったない卵とソーセージのしか持ってこない人で 
よく便所に弁当捨てられて泣いてて、すっげー笑えた」 
って。 

A先輩は私のお弁当を褒める引き立て役としてその話をしたらしいけど 
さーっと全身の血の気がひいた気がしました。 

でも先輩に「それは私の兄です」と言う勇気はなく、その日からFOしました。 
A先輩と仲がいいらしい女の先輩に呼び出されてビンタされたりしたけど 
3年の卒業とともに平和になりました。