修羅場ってほどじゃないけど、去年、お盆に実家に帰省したときの話。
登場するのは全員同い年で社会人です。

お盆で帰省した俺に、携帯じゃなく家電に元同級生から電話がかかってきて
プチ同窓会をやるから来ないかと誘われた。

俺は数年前に親父を亡くして建前上は家長で色々やることがあったから
途中参加でいいなら行くと言って8時ごろ合流した。

主なメンバーは
出来杉=学生時代、成績優秀スポーツ万能モテモテだったやつ
スネ夫=昔スネ夫っぽいキャラだった。でも嫌われてたわけじゃない

元カノ子=昔俺の彼女だった。と言ってもキスすらしたことなかった
しずか=昔しずかちゃんポジションにいた優等生少女。出来杉の元彼女
只子=当時地味だった子。おとなしいメガネの子だった

行くともうみんな酔ってた。
最初俺ははしっこに座って、幹事の奴としゃべってたんだが
途中で出来杉に
「おう来たのか!こっち来いよ!」って言われて
上座の方へ移動した。


上座あたりにいたのが上記のメンバー。
呼ばれて最初はなごやかに飲んでたが、だんだん出来杉が感じ悪くなってきた。
「片親なのに上京するなんて親不孝なやつの気持ちはわからない」とか
「頭もよくないのに東京に進学なんて金食い虫の身の程知らず」とか
あきらかに当てこすりくさいことを言って、ニヤニヤ横目で笑う。


只子はすごく垢ぬけて綺麗になっていた。
出来杉やスネ夫もそう思ったらしく「こっち来いよ!」と何度も呼びかけていたが
只子は笑顔でかわし、俺にこそっと小声で
「あいつら、昔さんざん私のこといじめてたくせに。
しずかに言われて私のこと蹴ったり、水かけたりしたんだよ。今でも大っきらい」と言った。

俺はしずかにそんな面があるなんて知らなかったから
「しずかって誰にでも優しい優等生かと思ってた」と小声で言い返した。
でも聞こえてたらしくて、周囲にいたやつらにボソボソと
「気づいてなかったのは俺くんみたいなニブい男子だけ」
「もう大人なのにまだ当時の力関係が通じると思ってるみたいで、ついていけねーよ」
と囁かれた。
そう言われてよくよく場を見回したら、あいつら四人だけ浮いてた。
上座にでんと座ったまま動かないし、他のクラスメイトとは一切話さないし。



片親ったって親父が死んだのは俺が就職してからだし
出来杉がイヤミを言うほどのアホだったわけでもない。
しかも昔なら出来杉にへつらいながらさりげなく止めてくれたスネ夫が
出来杉を完全無視して、出来杉の彼女だったはずのしずかとイチャイチャしている。

俺にイヤミを言い続ける出来杉の横にはむっつり黙った暗い女がいて
出来杉のこぼした酒を拭いたり、取り皿に料理をとったりしてやってた。
俺はイヤミに飽きたので便所に行くふりをして席を立った。

便所から戻って、また出来杉にからまれないよう適当な席に座った。
隣にいた子が只子だった。
只子は苦笑いして「出来杉に絡まれて大変だったね」と言った。

上記の主なメンバーはずっと地元で進学して地元で就職したやつらなのだが
出来杉は就職の過程で挫折し、スネ夫に立場を追いこされてしずかを寝盗られ
元カノ子と付き合いだしたはいいが、元カレである俺が帰省したので
浮気するんじゃないかと疑って俺を呼び出した(アリバイ確認?)
というよくわからん確執によって俺はイヤミを言われたらしかった。

ということは出来杉の横にいたあの幽霊みたいな女は元カノ子だったのか、と
やっと気付く俺。
痩せて、老けてたからわからなかった。白髪増えて、髪のてっぺん薄くなってたし。
幸せじゃないんだろうなあ…と思った。


俺「あいつらまいて、みんなでどっかで飲み直すか」とポロっと言ったら
幹事の伊東(仮名)も「俺もそうしようと思ってたんだ」と言いだした。

とりあえずちょっとずつトイレに立つふりしていなくなって、人数が少なくなったら
言いだしっぺの俺があいつらの気を引きつけて、その間に全員ずらかるってことになった。
最後まで残ったのが俺と只子。

出来杉は俺に絡みたい気まんまんだったから、暴言を言いたいだけ言わせて
ハイハイって機嫌良く流して酔いつぶした。
都会の営業のスルースキルなめんな。

スネ夫はしずかが目の前にいるのに只子を口説こうと必死で、
只子が適当にあしらうたび、しずかがプルプルしてた。
出来杉が完全につぶれたとこで、元カノ子に
「俺ら、他の店で二次会やるけどお前は?」って訊くと無言で首を振ったから、そうかと言って
「またな」って言ったけど返事はなかった。

只子に「行くぞ」って声をかけるとスネ夫がついてきそうになったが
只子が「もう、携帯教えてあげるからこれでいいでしょ。あとでね!」
ってメモを渡してそれでスネ夫がニヤニヤしながら「おう、あとでな~!」と引きさがった。
二次会の席で聞いたが、もちろん大ウソの携帯番号だそうだ。


でも俺には本当の携帯番号とメアド教えてくれました。
しゃべったら映画や音楽の趣味がとても合うことがわかり、
某野外ライヴの現地で落ち合う約束をして、そこから仲良くなって付き合いはじめ、現在に至る。

今年のお盆も帰省したが、飲み会に出来杉とスネ夫、しずかはいなかった。
幹事によると「出来杉は連絡がとれない。スネ夫は断ってきた」とのことだった。

俺が帰ってから出来杉はとスネ夫に揉め事があったらしく、
酔った出来杉が車でスネ夫実家の玄関に突っ込む騒ぎがあって、いろいろあったらしいが
結局刑事事件にはならず、示談になって
出来杉はそのまま誰にも何も言わず仕事もやめて失踪してしまったという。
スネ夫としずかは別れた。
理由はしずかが「上京して芸能界を目指す」と言いだしたからだそうだ。
只子が垢ぬけて綺麗になったのを見て、
「自分ならもっともっとイケる!」と思ったからだそうだ。

過去の栄光っていつまでも自分を縛りつけるんだなあ…と思った。