社会人になってからある芸事にハマって、習い事をするようになったときの話です。
若い人はあまりやらない(というか知らない)ような芸事なので
当然教室にいるのは年配の方ばかり。
二十代の女は私だけでした。


打ち解けてくると、その人たちの
「うちの息子の嫁にどうか」
「うちに独身の親戚がいるんだけどどうか」
と紹介話がガンガン持ち込まれるようになりました。
しかし私は4年つきあった彼と別れたばかりで恋愛はしばらくいいやと思ってたから
全部スルー気味で断っていました。

ある日、名簿順で隣になることが多かったAさん(60代前半の男性)に
「彼氏いないって聞いたんだけど、良かったら…」と話しかけられ
ああまた「息子の嫁に」かと思った私は
「せっかくですが、今私おつきあいとかあまり興味なくて」とやんわり断りました。


しかし私は勘違いしていました。
物腰、年齢からして既婚だとばかり思っていたAさんは、実は未婚。一度も結婚経験なし。
「息子の嫁に」ではなく「自分の嫁に」という誘いだったようです。
他の方が持ち込んだ縁談もすべて断ったことで「身持ちが硬い」とAさんに思われ
「おつきあいに興味ない」と発言したことで「つまり処女」と思われてしまったようでした。
もちろん↑のことは、あとでわかったことであって
そのときの私はのほほんとしてました。

数日後、チャイムが鳴ったので出ると、目の前には知らないお婆さん。
Aさんの母親でした。
住所は教室の連絡網をもとに突き止めたようでした。
Aさん母はがっちり私を「Aの嫁」認定したらしく、玄関先で「A家嫁の心得」を説き始めました。
あまりにも大量だったんで全部は覚えてないけど
「嫁たる者、牛馬のごとく働いて家に尽くし~」って一節だけは覚えてます。
「牛馬」っていうフレーズがインパクトありすぎて。

要するに嫁は家のため、誰よりも働いて働いて夫と姑に尽くしまくるべし、というお説教でした。
途中まではかどをたてないよう、穏便に帰ってもらおうとしたんですが
あまりにも言葉が通じないから諦めてむりやりドアを閉めました。


翌日からA家に粘着させる日々が始まりました。
だらだら書くと長くなるのでAとA姑がしたことを箇条書きにすると

・あの娘(私のこと)は年内にA家の嫁にくるんだと近所に言いふらす
・素行調査のつもりなのか、私の動向を近所にいちいち聞いて回る
・勝手に私とAの温泉旅行を予約して、しかも請求書をこっちに回してくる(もちろん電話でキャンセルしました)
・勤務先に凸してくる
・私が勤務中しつこく電話して母から預金額を聞きだそうとする(向こういわく持参金)
・勝手にうちとA家の名で料亭に結納の席を予約する(これも請求確認の電話で発覚してキャンセル)
・私が会社帰りどこかへ寄ると、それがコンビニであっても「何してた」「男か」と母子で凸してくる

などです。


私は実家住まいなんですが、父が前年に亡くなっていて母と二人暮らしだったことも
なめられる一因になったみたいです。
Aは最初のうちは「うちの母が暴走して申し訳ない」みたいな態度だったのに
一ヶ月もしないうちにA母と一緒になって「おまえは俺の嫁!」な態度をしてくるようになりました。
芸事は続けたかったのですが、泣く泣く教室はやめました。
しかし勤務先はバレてるし、家もバレてる。持ち家だから引っ越すわけにもいかないし
交番に相談はしたけど、暴力沙汰があったわけじゃないからとお巡りさんも何もしてくれない。

でもうちがストーカーされてるって噂は広まりつつあり、
それをどっかで聞いたらしい元彼(4年つきあったけど彼の浮気で破局)が
盛大にロミオって参戦してきました。

いつの間にか浮気相手に捨てられていて
「おまえと過ごした日々が俺の人生最良の日々だった。俺の姫がジジイにストーカーされて困っているって聞いたよ。
待ってろ。今おまえの王子様が迎えに行ってやる…」
ときもいロミオメールとともに家に押しかけてきました。

私と元彼が玄関先で押し問答していると、そこへA母子が来てはちあわせ。
私を「年齢=彼氏いない歴」だと思い込んでいたA母子、元彼の存在に発狂。
A母が元彼を傘で殴ったり突いたりし、Aは私を殴った。
近所の人が通報してくれてA母子、やっと暴行罪で現行犯逮捕。
ちなみに元彼は殴られてる私を置いてとっとと逃げた。

警察でA母子は私を結婚詐欺だと訴えたそうですが、多勢の証言がありもちろん訴えは却下。
こんこんと警官に説教されて帰宅した後は「恥をかかされた。ツツモタセにひっかかった」と吹聴していたようですが
一回窓ガラスに石を投げてきた他はぴたっとおさまりました。


元彼は「おまえは強いから俺が守らなくても大丈夫だと思った」と言い訳メールを送ってきたので
前の「王子様メール」と一緒に仲間内に転送し
「こんなアホに粘着されたくないからアドレス変える。アホには洩らさないで」と添えて送った。
元彼は仲間内でpgrされたのがそうとうこたえたらしく、
しばらくして転職を機にいなくなりました。

私はその後何年かしてべつの習い事を始め、そこでかつての教室で一緒だった人と再会し
Aの近況を聞きました。

Aは今も独身で、A母は痴呆が始まりつつあるそうです。
気の毒だとは思うけど、もうかかわりたくないです。